できなかったこと、できたこと

ようちえん、つまらないの、とちびさんが言う。
おや、どうしたの、と思って話を聞いてみると、カード取りゲームをしたんだけど、カードがとれなかったというんだな。
どんなゲームかよくわからないが、かるたのようなものなら、そりゃ、ちびさん、無理だろう。自分のわかるものをひとりで、取ることはできても、はじめての遊びで、みんなのなかに分け入って、というのはそうとうハードル高いと思う。
しかし、だ。「ぼくはしないの、ぼくにはむずかしいの」と言って、最初っから輪に入ろうとしないことの多い子が「カードとりたかったの、でもできなかったの」と、とっても残念がってしょげているのは、たいした成長ではないだろうか。
連絡帳によると、活動に自発的に参加することが増えてきて、できないことがあると、涙が出たり、困った顔をしたり、するらしい。

それでちょっと一緒に遊んでやる。日本地図パズルを出してきたので、ピースをばらまいて、ママの言う県を見つけて、それを並べてね、と言ったら、なんにも間違わずに、すらすらやりましたね。県名は漢字で書いてあるんだけど、それもすらすら読めるし。

「北海道はぎゅうにゅうとチーズなのよ」「千葉県はピーナッツバターがあるのよ」「愛知県はくるまをつくってるのよ」「山口県はおじいちゃんとおばあちゃんがいて、おじいちゃんはプリウスにのるのよ」「大分県はゆふいん電車があるのよ」「秋田県は○○系がはしるのよ」「新潟県はじょうえつ新幹線なのよ」「宮城県はとうほく新幹線」「長野県は○○系」「埼玉県はこうつうはくぶつかんがあるのよ」「石川県は金沢があるのよ」「岩手県は、じしんがあったところなのよ」などなど、パズル並べながらしゃべっている。

どうしてそんなによく知ってるんだ。新幹線の話はE2系とか400系とかいろいろ言っていたが、私はさっぱりわからんので、再現できない。

夕方、▲が出そうで出なくてしばらく苦しんでいた。2日前、▲しそうだったので、トイレに連れていったらそのままひっこんでしまって、それから出せてない。トイレに行くのがストレスで便秘になっているようなので、もうお部屋でパンツのなかでしていいよ、というつもりで、声かけないでいたら、自分から「おしっこにいくからいっしょにきて」と言い、二度目に行ったとき、ついに出せた。ちびさん、泣き笑いのような顔だったが、思いっきり、ほめてやる。新幹線のポスターにシールもたくさん貼ってやる。

「ウンチできたの」とちびさん。つづけて「ウンチできたから、フィリピンにいけるの」と言う。

え!?

この夏、久しぶりにパヤタスに行こうかと考えていて、パパに相談していたら、「ぼくもいく」とちびさんが言い出し、いいや、きみはお留守番するんだと言い聞かせるのに、「トイレで▲できない子を連れて行けません」って、言ったような気がする。そういえば。

「ウンチできたのはえらかったよ。フィリピンへの第一歩だよ。でもきみは英語ができないし(私もできないが、それは棚にあげておく)、それにたくさん風邪ひいたでしょう。だから無理だよ。もっと英語勉強して、もっと大きくなって、体も丈夫になったら、いっしょに行こう。でも今度はパパと一緒にお留守番してね」
目に涙浮かべながらも、わかった、とは言ってくれた。
「そのかわり、おみやげにフィリピンブッブー(ジプニー)買ってきてあげるよ。大きいのも小さいのも買ってきてあげるよ」と言ったら、ようやく笑顔になったよ。
きみを連れて行けない本当の理由は、もちろんウンチではなく、運賃の問題なんだけどね。きみの分とパパの分と、三人分は工面できないからさ。

はじめての机。椅子から転げ落ちたり引き出しに指はさんだり、思わぬトラブルをひきおこしながらも、夢中でしがみついている。寝るまで、絵をかいていた。線路と道路と電車と自動車の、町の地図のようなもの。