「こわいはなし」

床に散らばった子どもの落書きの紙屑を片づけていたら、
こんなのがあった。

「こわいはなし

だーれもいないくらいところに
はいらされそう。
ゆかしたからぶきみな
おとがきこえてくる。
うしろのどあからおとがきこえて
ゆっくりとひらく。
しんぞうがのどからでてきそう。」

せいいっぱい、こわそうな文字を演出したんだろう。ひらがなのひとふで書きでかいてある。何か出典あるのかもしれないけど、
ほんとにこわいや。

部屋と台所を行ったり来たりしながら、ぶつぶつ喋りつづけている。
テレビか本の何かの場面を、ひとりで楽しそうに再現しているのだが。
「おもしろうてやがてかなしき自閉症」とパパがつぶやく。

この人は、子どもが自閉症と診断されたとき、つらかったらしい。
と最近知って、驚いた。
なんで。親に似ただけじゃん。
ああ仲間だ、と思って、そんなら、ふつうの子よりわかりやすい。
私はかえってほっとして、
幼稚園で教室脱走しても、みんなと同じことができなくても、そんなもんだろ、と思って気にもしない、ひたすら楽しかったんだが、
パパは、自分たちと同じだ、というまさにその理由で、将来どれだけ苦しむかと思ったら、たまらなかったらしい。

私からは、パパは子どもをかまいすぎ、甘やかしすぎ、に見える。
パパからは、私は子どもを放ったらかしすぎ、に見える。
おまえはそれでも母親か、と怒る。
あいにく、母親だ。

何があっても、どんなにこの世がこわくても、しんぞうがのどからでてきそうになっても、いのししにさらわれても、豚になっても、絶対に自分からは死なない、自殺はしない、という精神だけは持って下さい。それから、人も刺さない。

あとのことはさ。

7+3=9でも、6-1=4でも、まあいいよ。