遠き日の石に刻み 砂に影おち

意識して避けていたわけでも何でもないのだが、
8月6日頃は、広島にいないことが多かった。
ここ数年はフィリピンに行っていたし、でももし広島にいても、平和公園には近づかなかったのでしたが、
今年は私、広島にいて、京都から詩人の河津さん来たので、3日間広島街歩き。

5日夕方、雨。
原爆ドームの傍らに原民喜の碑がある。

Cimg6715


昔、18歳で広島に来てすぐのころに、私はこれを見たはずで、
それからずっと言葉を記憶しているけれど、でも碑の記憶はなくて、
私の記憶のなかで、言葉は、虚空に書かれているのが、なんだか不思議だ。透き通ったガラスのようなものに書かれて、宙に浮かんでいる。

「遠き日の石に刻み 砂に影おち 崩れ堕つ 天地のまなか 一輪の花の幻」

高校の教科書に「夏の花」は載っていて、でも授業ではやらなかった。
広島の古本屋で、三冊揃いの全集を買ったときのことなど、思い出した。夢中で読んで、その日本語をとんでもなくきれいだと思った。

大学跡地に寄って、昔のバイト先にお好み焼き食べに行ったら、注文しないものも出てくるし、うすうす危惧したけれど、
今日は私はお客さんだと言ってあるし、伝票も書いてくれているし、代金をテーブルに置いたら、マスターそれを取ってくれるし、
ほっとしていたら、「実家なんだから」と、まるごと財布のなかに戻されてしまった。
ここでキャベツ切っていたのは80年代頃で、最後にすこし働いたのも、息子が生まれる前だから、もう11年も昔なのに。

で、ただ飯食いでした。息子にハンバーグのお土産までもたしてくれた。
申し訳ない、有難いことでした。

夜、たまさかその日、サロンシネマで「ブラジルに生きるヒバクシャ」の上映があるということだったので、見に行く。
http://brazilniikiruhibakusya.blogspot.jp/2014/02/blog-post_18.html

この映画館が、この8月末で、閉館になるのが名残惜しい。

Cimg6720


昔、何枚つづりだったか回数券があって、600円ぐらいで映画見れたんじゃなかったかな。

ブラジルの核被害、医療施設や核施設の廃棄物による被害の話は、以前に本を読んだ記憶がある。広島からブラジルへ渡った被爆者の、生存への闘いと、ブラジルのヒバクシャや、若い世代との交流。
傷ついた人が、励ます人になる、人間は、自分自身を悲惨から救い出すことができるということを、原爆の悲惨を生きた人が、身をもって示してくれるということに、
それはもう、何度でも感動する。

道の並木のなかに、そこはもう学生の頃から、どれだけ歩いたかわからない道なのに、気づかなかったんだけれど、棗の木があって、実がたわわになっていた。

いい気持ちの夜だった。